2022年4冊目、カリール・ジブラン著、佐久間彪訳『預言者』を読みました。 

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この本を知ったのは、秋篠宮妃紀子さまの父・川嶋辰彦さんへの取材記事を目にしたことから。

孫である眞子さんの結婚について記者から尋ねられた時に、手帳を取り出して、このカリール・ジブランの詩の一部を紹介したといいます。

《あなたの子は、あなたの子ではありません……あなたを通ってやって来ますが、あなたからではなく、あなたと一緒にいますが、それでいてあなたのものではないのです……あなたの家に子供の体を住まわせるがよい。でもその魂は別です。子供の魂は明日あすの家に住んでいて、あなたは夢のなかにでも、そこには立ち入れないのです》

この引用を目にしてから、この本を読みたい気持ちが止みませんでした。

本書は英語で出版されたので、インドでも英語版は手に入ります。
なんならオンラインで、一部が英語で見れたりします。
著者が書いた言葉そのものもいずれ受け取りたいと思いますが、今は日本語で読んでみたかったので、一時帰国の際に購入してインドに持って帰ってきました。

まず装丁が美しい。
本の天地と小口が特徴のある草色に塗られています。
文庫本より少し小さいサイズで、中の紙の質も文庫本とは異なり、少し厚みのあるこだわりを感じる紙に印刷されています。

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私は普段、三色ボールペン方式で書き込みながら読書をしていくのですが、この本に線を引く気持ちにはなれませんでした。
まず1回目は、美しいままで読み終わりたいと感じました。

そして内容ですが。

私が心惹かれた章がいくつか。

結婚について。

あなたがた二人は一緒に生まれた。それで、いつまでも一緒なのです。
共に過ごした月日を死の白い翼が散らしても、あなたがたは一緒なのです。
まことに、神の静かな追憶のうちでさえも、あなたがた二人は一緒なのです。
しかし、それほど一緒の二人のあいだにも、自由な空間を置きなさい。
そして、そこに、天からの風をそよがせなさい。

愛し合っていなさい。しかし、愛が足枷にならないように。
むしろ二人の魂の岸辺と岸辺のあいだに、動く海があるように。
おたがいの杯を満たし合いなさい。しかし、同じひとつの杯からは飲まないように。
おたがいにパンを分け合いなさい。しかし、同じひとつの塊を食べないように。
一緒に歌い、一緒に踊り、共に楽しみなさい。しかし、おたがいに相手をひとりにさせなさい。
ちょうどリュートの弦がそれぞれでも、同じ楽の音を奏でるように。
おたがいに心を与え合いなさい。しかし、自分をあずけきってしまわないように。
なぜなら、心というものは、あの生命の手だけがつかむもの。
一緒に立っていなさい。しかし、近づき過ぎないように。
なぜなら、神殿の柱はそれぞれ離れて立ち、樫の木と杉の木は、おたがいの陰には育たないのですから。

子供について。

あなたの子は、あなたの子ではありません。
自らを保つこと、それが生命の願望。そこから生まれた息子や娘、それがあなたの子なのです。
あなたを通ってやって来ますが、あなたからではなく、あなたと一緒にいますが、それでいてあなたのものではないのです。
子供に愛情を注ぐがよい。でも考えは別です。
子供には子供の考えがあるからです。
あなたの家に子供の体を住まわせるがよい。でもその魂は別です。子供の魂は明日の家に住んでいて、あなたは夢のなかにでも、そこには立ち入れないのです。
子供のようになろうと努めるがよい。でも、子供をあなたのようにしようとしてはいけません。
なぜなら、生命は後へは戻らず、昨日と一緒に留まってもいません。
あなたは弓です。その弓から、子は生きた矢となって放たれて行きます。射手は無窮の道程にある的を見ながら、力強くあなたを引きしぼるのです。かれの矢が早く遠くに飛んで行くために。
あの射手に引きしぼられるとは、何と有難いことではありませんか。
なぜなら、射手が、飛んで行く矢を愛しているなら、留まっている弓をも愛しているのですから。

私は、特にこの二つの詩を心に留めておきたいなと強く思いました。

この詩は英語で書かれたものなので、英語で読むとまた味わい深いものがあるかと思います。

詩の部分だけなら116ページほどなので、やっぱりインドで探して英語版も手元に置いておきたい。

詩って、普遍的な現実をあらわしてるんだなって。
結婚についても、子供についても、そうではない現実があるから、こういった考えや思いが生まれるのだろうと思います。
その時代や地域に思いを馳せたけれど、誰にも通ずることが描かれている詩だと思いました。

美しいこの本に出会えて良かった。


預言者
Kahlil Gibran
至光社
1988-12-01