2022年7冊目、池亀彩著『インド残酷物語 世界一たくましい民』を読みました。

ikegameaya

南インドの都市ベンガル―ル(バンガロール)を拠点に研究を続けている社会人類学者である池亀彩氏が、これまでに出会った人々の人生を、自身の研究を交えて紹介した内容となっている。

私は、北インドにある都市グルガオンを拠点に仕事をしているため、どちらかというと北インドの一部の事情を知る機会が多い。

インドは日本の約9倍の面積を有しており、地域によって異なる文化や慣習がある。
そのため、インドにいる私たちは「インドでは……」といった大きな主語を用いることに非常に気を遣っている。

今回、本書を読んで、人々の所得や生活面でグルガオン(北インド)と共通しているだろう点を具体的に知ることができ、また一方で、南インドの村特有の状況や歴史を垣間見ることができた。

 私は、インドで働いているとはいえ、私が接するインド人というのは非常に一部の限られた層であるように思う。
それは、外国人である私だけでなく、インド人も同じように限られた層のみとの付き合いなのかもしれない。
そういった状況で、研究とはいえ、村々の人々の生活をのぞかせてもらえるほどの信頼関係を築ける著者のその熱心さと探求心は、見習いたいものがあった。
(研究者とサラリーマンでは根本的に異なるとは思うが、)私は、この街にそれほどの関心や疑問を抱けるほどの興味が無くなってきてしまっているからだ。
こういった本を通して新たな視点を得られたことを幸運に思う。

一方、私は統計的な結果や分析を期待してこの本を手に取った。
しかしながら、冒頭に著者が説明しているように「一つのテーマに沿って、既存の研究をしらみつぶしに検討し、そこから新しい理論を生み出そうとする研究書ではない」。
「あくまで「私的」であることにこだわりたい」としており、実際にn=1の話であった。
著者による新たな視点や分析を私はあまり読み取れなかったことが非常に残念だったが、インドに関わる人に対しては、フィールドワークの報告書として一読の価値はあるように思う。