2022年9冊目、ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著『FACTFULLNESS (ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』を読んだ。

factfullness

これは、インドに来る前後、2019年に日本で話題になっていた本だ。
読みたいなあと思いつつも、Kindleで読むことが難しい私は、なんとかして手に取れる日を楽しみにし、今年2月の一時帰国の際にゲット。

この本は、我々が思い込みやすい事柄を10の本能として捉え、データを基にそれを捉え直し、著者の経験もなぞりながら展開される。
引用データの紹介も含めると、全部で397ページあり、一日でサッと読みたい人には長い。
が、ひとつひとつの章が重要で、冗長だと思われるものがなく、吸収できるものや読み応えが十分だった。
本の厚みで本書を敬遠している人がいるとしたら、非常にもったいない。手に取って読み進めてほしい。

さて、あとがきで訳者が「もし、本書の感想をどこかで書いてくださるのであれば、あなたが以前、本能に支配されてしまったエピソードを添えてみるのはいかかでしょうか。」と書かれていた。

私が今思い出しても恥ずかしい、情報に囚われてしまった出来事は、2011年3月11日のことだ。
わかる人にはわかるだろうが、東日本大震災の夜のことだった。
当時は、大学1年生で、春休み。
家で一人と犬一匹とで金八先生の再放送を見ていたら地震が起きた。
津波がフォーカスされるが、東京近郊に住んでいた人はあの夜の混乱も忘れられないだろう。
あの日、親の帰宅は遅く、私は家でPCを開き、当時所属していたサークルのBBSを見ていた。
当時はLINEが無かったのを皆覚えているだろうか。
無事の報告をしつつ、何人かの人が情報を提供していた。
都心で一人暮らしをしている人も多かったことから、家に帰れない人がいれば自宅に来てもらうなど協力しようとしていた。
その中で、私はどこかのネットニュースで見た「千葉の工場の火災の状況が悪く、ガスが漏れている」ようなニュースに囚われ、逡巡したものの、そのBBSに投稿したのであった。
少ししてから、そのニュースが正しくないものであることがわかり、誤った情報を投稿してしまったことをBBSで詫びた。
(その後、一人で家にいる私を心配してか、サークルのメンバーが開いていたSkypeチャットに誘ってくれた。
皆それぞれの場にいつつも、Skypeを通して笑いながら夜を過ごしたことは忘れられない。)

これは、恐怖本能に支配された経験になるだろうか。
誰にも危害を加えてはいないものの、人々が冷静な中で自分だけが情報に囚われてしまったようで、恥ずかしい思い出である。

しかしながら、この経験から、ひとまずニュースや記事については、一旦落ち着いて受け止めることを意識するようになった。

そういえば、本書には複数の問いが出てくる。
人間は思い込みがあるためか正答率が低くなり、チンパンジーによるランダムな選択のほうが正答率が高くなる問いだ。
これは、所得の差が大きいインドに住み、実際の生活を遠くから見ている経験があるからか、おおむね正解した。

インドにただ居るだけの人になりがちと批判する日本人もいるかもしれない。
(こういうことを言う人が怖いので私は近寄りたくないが。)
それでもここには様々な現実があり、世界は少しずつ良くなっているという実感を得ているこの生活によって、わずかでも視野が広がり溢れるばかりの情報を適切に捉える姿勢が身に付くとすれば、意味のないことなんてないんじゃなかろうか。

そんなことも思わせてくれる本だった。



P.S.
追悼